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医療構想・千葉

第七回どこでもMYカルテ研究会開催速報

 2010年7月に始まったどこでもMYカルテ研究会は今回で第7回目を迎えます。この3年間で、どこでもMYカルテは現実のものとなりました。多くの地域でその実践が始まっています。これからはいかに自治体や医師会などと効率的な運用につき共同作業がおこなえるかが問われるでしょう。
 一方これらのどこでもMYカルテ実践は、医療だけではなく介護福祉をも包含するものになりつつあります。現在の介護福祉領域では認知症を避けて通ることはできません。この世界、ICT化からもっとも遠い世界と考えられています。
 今回はこれらの問題を様々な方向から考えました。

 当日は台風が接近し、一部交通機関に影響が出るなか、多くの皆様にお集まりいただき、充実した発表ディスカッションを行うことができました。
 以下プログラムに沿って簡単な開催速報を掲載致します。

■第七回どこでもMYカルテ研究会
〜「医療と介護の連携は認知症にどう対応できるか、ICTの果たす役割は」〜

日時:2013年10月26日(土)13時から
場所:東京海上日動火災保険本社新館ビル15階 中会議室(東京駅から3分)
主催 どこでもMYカルテ研究会
共催 医療構想・千葉 http://iryokoso-chiba.org/
   NPO法人医療福祉ネットワーク千葉 http://www.medicalwel.com/
   一般社団法人フューチャー・ラボ http://thefuturelab.jimdo.com/

第七回どこでもMYカルテ研究会

13:00
開会の挨拶 増山 茂(どこでもMYカルテ研究会・東京医科大学渡航者医療センター)

過去6回のどこでもMYカルテ研究会を振り返り、今回のテーマ「医療と介護の連携は認知症にどう対応できるか、ICTの果たす役割は」の意味を解題されました。

I部
医療と介護のシームレスな連携におけるICTの利活用その現状と目指す到達点
総合司会  竜 崇正(浦安ふじみクリニック)

マイナンバー導入が決まった中、医療分野のICT化について国の目指す方向を改めて確認し、各地における実践の状況、目指すべき方向について発表頂き、討論を行いました。

13:10
1.姫野 信吉 理事長(医療法人八女発心会 姫野病院/福岡)略歴
「地域医療連携と福祉介護:新しいシステムの試み」

<概要>
医療介護分野のICT連携がうまくいっていない。電子カルテが病院から普及が始まり、診療所、在宅へ普及するというトップダウンのICTの流れも重要だが、ボトムアップのICTと合わせて初めて機能するのではないか。また、東日本大震災の経験が次の災害対策に十分活かされているか危惧がある。ボトムアップのICTが、発災直後医療支援に有用ではないか。
 在宅での医療介護連携には、たくさんの背景を持った多種多様な主体が参加しないとうまくいかない。職種や年齢によってもICTのリテラシーが全く違う。都市部はまだしも、農山村地域で医療に従事しているのは前期高齢者の医師が多い。前期高齢者が後期高齢者に医療を提供している。前期高齢者にICTを使えと言っても難しい。認知症患者も医療者の前に出るとシャキッとして正しく診断できない。家族の協力も必須。
 大がかりなシステムを導入しようにも資金がない。都市部では患家が密集しているので訪問系サービスの経営も成り立つかもしれないが、田舎では赤字。まして電子カルテをトップダウンで普及させるのは無理。
 在宅医療介護の連携は紙で実施されている。患者の枕もとに連絡ノートがあり、医師、看護師、薬剤師、ケアマネージャー、ヘルパーが手書きで書いている。しかし、紙はそこにいかないと見えないので、遠隔地からリアルタイムで見ることができない問題がある。解決法は、誰でも持っているカメラ付携帯。手書きでノートに書いたら、そのページを撮影してクラウドにアップロードするすればよい。テキスト化やOCR等の加工は後で必要な分だけ行えばいい。不要なデータはどんどん捨てればよい。
 定型的な問診票などは、定型書式イメージをタブレットに呼び出しペンで記入するだけ。このくらいなら前期高齢者の医師でもできる。F社やN社からご立派な値段のシステムが出ているが、今回のシステムは画面ショットだけなのでSS-MIXも関係ない。地域医療再生基金で、自院でもID-LINKを導入したが、接続部分は、N社に頼まずに自力で開発した。総じて、ひどく時代遅れで使い勝手の悪いシステム。電子カルテの連携は、ウェブブラウザ上でのワンクリックで、ボストンのハーバード大学病院と八女の整形外科が難なくつながる時代。時代遅れのシステムにいちいちお付き合いするのは面倒。画面ショットなら費用もかからない。
 画像にGPSで位置情報を付けてからクラウドに登録する。サーバの運用費は月10万円程度。請求書のやり取りも面倒なので、当会負担で無償提供している。
 サーバ上には一切患者情報を保存しない。患者からも自分の情報をウェブで見られる。
 普段使っていないものは修羅場では役に立たない。大規模災害が起こってからほこりをかぶったものを引っ張り出してトレーニングしていたら間に合わない。震災時にもクラウド型電子カルテを被災地に導入したが、引き継ぎに30分かかった。反省点として30分ではなく5分で習熟できない災害時には役に立たない。本来、システムはずっと改良を続けないといけない。しかし、実態は3.11からPDCAが1周しているかも怪しい。いまだに検討しかしていない。災害にだけ特化したシステムは信用できない。日常使っているシステムをそのまま災害時に使うのが合理的だ。巨額の資金で災害向けの大規模なシステムを構築しても、5年後にまた巨額の資金を投じて更新できるのか? 発災初期はキーボードをたたく暇もなく、紙しか使えない。JMATも1チーム3泊4日が限界。
 在宅医療の写真を撮るだけのシステムを災害時にもそのまま使えばよい。通信が途絶していても写真を取ることは可能。回線が復旧してからまとめてアップロードすればよい。大量の画像データがアップロードされるので、被災していない地域の医師会がテキスト化等の整理をする。名古屋と香川で11月に訓練が予定されている。被災地に飛んでいかなくても、自分が慣れているオフィスでも被災地支援はできる。医療専用の機器は要らない。使い慣れた安い民生機器がよい。
 Amazonのクラウドサーバを使っており、十分空き容量がある。当会の電子カルテシステム自体もAmazonなどのクラウドに移行する方針。いざとなればシンガポールや台北に逃がす。国内のデータセンターが機能不全にいたる事態も、想定外とは言いたくない。権限管理ソフトをAmazonクラウド上に置いており、ID/PWでログインすればアップロードや閲覧ができる。ユーザ1人当たりの容量制限は設けている。在宅で医療だけはあり得ない。医療と介護が最初から混ざっている。訪問看護師が医療と介護を仲介している。看護師が一番汎用性が高い。
(当日の講演資料【PDF】はこちらから)

会場: タブレットで写真をアップロードするだけでも難しいと感じる介護職がいる。
姫野理事長: 原本はあくまで紙の連絡ノート。家族や一部担当者がアップロードの方法が分からなければ、次に訪問するスタッフが撮影してアップロードすれば良い。

2.磯 寿生(総務省 情報流通行政局 地域通信振興課 地方情報化推進室長)略歴
医療分野のICT化を巡る政策動向

<概要>
医療分野のICT化は目に見える形になりつつある。医療分野は成長戦略の戦略分野としても大きく取り上げられている。日本は課題先進国というフレーズも定着しつつあるが、医療はその中心的課題といえるだろう。
 総務省では、出雲、香川、尾道等で日本版EHRモデル事業を推進してきた。東北メディカル・メガバンク計画では、東日本大震災の教訓を踏まえ、厚生労働省と連携し、被災地で医療連携のモデルを構築しており、宮城県では医療圏単位の連携が県全体に拡大する見込みである。
 医療ICT化の効果について、定量的な効果は海外の文献も含めてあまり実績がないため、平成24年版情報通信白書の特集の一環として調査研究を行った。調査にあたっては定量化を重視し、各種既存調査に根拠を求めるなど、可能な限り検証に耐えられるようにした。詳細な試算方法は全て白書及び調査研究の報告書に掲載しているので参照いただきたい。
 発生主体については㈰個人、㈪医療機関、㈫保険者を想定し、効果は㈰医療費適正化(個人が健康になること等を通じた効果)、㈪収入増加・費用削減(医療機関や保険者の経営の観点からの収支改善)、㈫社会便益(通院時間の短縮などの機会損失の回避)を対象とした。25項目の効果項目に分類し、うち16項目について定量化した。
 本件は調査段階に発生している効果を推計しており、将来的な普及進展による効果の拡大については、普及率の推計が難しく実施していない。本件調査は継続的な精緻化が望ましいが、情報通信白書で継続することは難しいこともあり、関係者の研究に資することも意図して全て公開している。今後の研究の進展に期待したい。
 クラウドはほぼ前提になりつつあるなかで、スマホ・タブレットなどのモバイル、ビッグデータ活用といったICTの新しいトレンドをどう日本の成長につなげるかが焦点になっている。今後のICT成長戦略を推進する上で、医療分野のICT化は重点分野の一つで、日本は高齢化が世界で最も早いタイミングで進展しているが、韓国・中国なども日本を上まわるスピードで進展しており、日本の課題解決が国際貢献・国際競争力にもつながる。ICT超高齢社会構想会議の報告書で「スマートプラチナ社会の実現」を提言するなかで、医療分野では、ICT健康モデルの確立、医療情報連携基盤の全国展開を掲げている。
(当日の講演資料【PDF】はこちらから)

3.竜崇正(浦安ふじみクリニック)略歴
医療看護介護地域連携、浦安市医師会の取り組み

<概要>
 現在は医師1人で医療と介護を連携している。ボトムアップでICT化したい。曜日別に各診療科の専門医に来て頂き、専門外来を開設している。竜院長自身はがんが専門であり、看取りをしたいが、一方で登山も好きなので、登山中に亡くなる患者を看取るためには連携が必要。
 世界中でも治療が困難な進行肝腫瘍の患者症例。訪問看護ステーションと後方受容れ病院と連携し、亡くなる前日まで在宅にて自力でトイレにも行けていた。最後まで何もせずに看取りたかったが、搬送先の当直医は一定の検査や処置をしてしまったことが少し心残り。
 腹部大動脈瘤の患者症例。看護師が大動脈瘤を腸閉塞と誤解し、マッサージするというヒヤリハットもあった。在宅ではおとなしかったが、入院したら大騒ぎして帰宅した。
 全身麻痺の症例。持続導尿、褥瘡が目立ってきた。短期入院の結果褥瘡が改善し、ADLも改善し、膀胱カテーテルも外れて自力排尿も可能になった。短期入院はADL改善に効果的。
 院長一人では見きれないのでチームが必要。患者が必要とするチームを組み、その情報をクラウドで連携する。浦安市医師会で連携担当になり、どこでもMyカルテの方針で県医師会にも了解を取った。日本医師会のクラウドで共有できればよい。
 該当患者の状態が一目でわかる画面をつくり、連携チームの主導者、家族のキーパーソンが誰かが分かるようにする。基本データ項目を標準化したい。コンセプト図では患者が中心にいるべき。
(当日の講演資料【PDF】はこちらから)

4.山口 典枝 (メデイカルアイ株式会社代表取締役)
医療介護連携の経験と今後への展開

<概要>
 山口代表取締役はもとはビジネスコンサルタント。他職種をつなぐできるだけ簡単な仕組み。
 レセプトコンピュータからクラウドでお薬情報を共有。在宅緩和ケアSNSでは写真を取ってアップロードするだけでよい。
 尾道でモデル事業に取り組んでいる。
 病院カルテを診療所に開示することも役に立っているのは事実だが、開業医にとってはシステムを起動して該当患者の情報を見つけるのも大変。
 そこだけを見ればわかるようなキー情報を整理する必要がある。
 医歩ippoはSNSがベースだが、サマリの共有機能を開発したい。大量にある情報の中から何がキーか整理しないといけない。
(当日の講演資料【PDF】はこちらから)

姫野 信吉 理事長(医療法人八女発心会 姫野病院/福岡) 磯 寿生(総務省 情報流通行政局 地域通信振興課 地方情報化推進室長) 竜崇正(浦安ふじみクリニック) 山口 典枝 (メデイカルアイ株式会社代表取締役)
姫野 信吉 理事長
(医療法人八女発心会 姫野病院/福岡)
磯 寿生
(総務省 情報流通行政局 地域通信振興課 地方情報化推進室長)
竜崇正
(浦安ふじみ
クリニック)
山口 典枝
(メデイカルアイ株式会社代表取締役)

Ⅱ部
医療介護ICT連携から取り残された認知症
総合司会  溝尾 朗(東京厚生年金病院地域連携・総合相談センター長兼内科部長)
      増山 茂(どこでもMYカルテ研究会・東京医科大学渡航者医療センター)

野口部長挨拶:関東地域の新産業創出、中小企業支援を現在行っている。内閣官房IT室で政府IT政策として医療情報化に携わり、コンセプトを打ち出し、各所で講演も行った。医療情報化タスクフォースでは三師会にもご参加頂き、十分議論したと思う。どこでもMyカルテ研究会には皆勤賞。相対的に進んでいる分野とこれからの分野がある。在宅医療と介護の連携はまさにこれから。
増山兼任教授: 医療と介護の連携になると、難しい問題がいろいろ出てくる。自己決定ができるかも問題になる。

15:00
1.溝尾朗(東京厚生年金病院地域連携・総合相談センター長兼内科部長)略歴
地域包括ケアの今後の課題

<概要>
 認知症にとって地域包括ケアは非常に重要。地域包括ケアという用語が知られるようになったのは21世紀に入ってからだが、昭和20年ごろから長野県で若月医師が往診を始めた。財政も厳しく、予防が重要。まさに現代と同じ課題を抱えて、地域包括ケアそのものを実践していた。
 公立みつぎ病院の山口医師による寝たきりゼロ作戦を通じて、地域包括ケアの概念を提唱し、実践した。
 一橋大学猪飼先生が地域包括ケアに理論的バックボーンを与えた。
 溝尾部長が研修医の頃、手遅れで入院し、半年くらいで亡くなる肺がん患者が多かった。
 当時の医療の目標は生存期間を延ばすことだった。生存期間を1.5カ月延ばすために2か月入院しなければならなかった。「治療医学」。
 介護・福祉は最初から自立を支援し、QOLを向上させることだった。目標が医療と介護で全く異なっていた。
 しかし、医療も慢性疾患が対象になると医療から介護・福祉が連続してきた。医療も介護もQOL維持・増進が目標になった。
 20世紀は病気が発見されていないことが健康の定義だったが、21世紀に入り、心身の状態に応じて生活の質が最大限に確保された状態が健康の定義に変わった。
 日本は高齢化率が高い一方で、国民負担率は低く抑えられている。これを維持するためには、消費税増税、予防、医療・介護の効率化、日本の医療の国際展開しかない。このうち予防、医療・介護の効率化が地域包括ケアの対象。
 Leutzによると地域包括ケアは連携、調整、完全統合の段階を経て進むとされている。しかし、地域包括ケアを実践するにも、地域ごとに医療や介護の資源が全く異なる。必ずしも完全統合に向かって進むのが全ての地域で正しいとは限らない。完全統合すると官僚化も進む。現場に委ねた方が協力や献身を得やすい。
 訪問看護と病院看護の最大の違いはやりがい。訪問看護は努力の成果がすぐ見えるし、裁量もある。オランダのBuurtzorgは巨大な組織だが、12人のチームが独立性を維持しており、理想的と言える。
 認知症患者は入院によって環境が変わると悪化する。悪化するから抑制し、尊厳が崩壊し、結果として 入居型介護施設に転所してしまう。
 大田区の熊谷医師によると、認知症患者は自分の不安を最小化するための仮想現実を構築していると言われる。介護者は家族になりきる。徘徊の原因はかつての買い物や出勤の習慣に起因していると言われる。患者の人生の物語をICTで記憶しておく必要があるだろう。その患者がかつて好きだった音楽が流れるなど、スマートホスピタルの構想も提案したい。
 みつぎ病院山口医師の708人の調査では認知症状が皆無だった。民俗学者の斉藤先生によると、東京都のある島では認知症患者を見かけると近所の住民が家に誘って話をすることで症状が抑制されている。
 取組がうまくいっているかどうか評価するためには目標を再認識しないといけない。評価が不足している。
(当日の講演資料【PDF】はこちらから)

増山兼任教授: 認知症では長谷川方式が有名だが、長谷川先生と今井先生は共同で取り組んできた。

2.今井幸充(和光病院院長・認知症ケア学会副理事長)略歴
認知症患者対策:政府の対応策・現場での問題点

<概要>
 有吉氏の「恍惚の人」はセンセーショナルな小説だった。2000年の介護保険制度は当時成立するか議論されていたが、10年以上経過し、介護の社会化は浸透した。介護の課題が色々なところで議論されるようになった。
 1980年までは老人病院。養老院は事実上の隔離政策だった。養老院に入りたくない高齢者が老人病院に社会的入院として長期入院していた。ゴールドプランで制度が整備されてきた。現在は認知症のオレンジプランが推進されている。
 2003年に厚生労働省が発表した2015年の高齢者介護は衝撃的だった。当時の認知症患者に対するケアが遅れていると認めた上で、尊厳という概念を前面に提示した。それまでは、人権を侵害するケアがよしとされていた時代もあった。
 2008年に認知症対策の基本方針が提示され、医療と介護の連携、本人や家族の生活の支援が掲げられた。
 認知症専門医は非常に少ない。和光病院は日本で数か所しかない認知症専門病院。BPSD (いわゆる問題行動) の治療方法が確立していない。認知症があると内科や外科の病院で入院を拒否されることもある。
 2009年度の認知症診療ガイドラインは、認知症に対する医療と介護を標準化する取り組みだった。認知症サポート医養成研修、かかりつけ医認知症対応力向上研修を創設した。
 認知症疾患医療センターの機能はまだ明確ではない。かつて類似のセンターもあったが、地域との連携がうまくいかず、機能しなかった経緯もある。連携を密にすることが認知症疾患医療センターの新しい特徴。
 かかりつけ医にも専門機関との医療連携、介護の多職種との共同が期待されている。
 認知症は早期発見が重要。
 地域包括ケアシステムの定義には、医療や介護のみならず、福祉サービスを含めた生活支援サービスが含まれる。「地域包括ケア」の概念は曖昧で、地域が何を指すかもはっきりしないが、小中学校区程度を指しているようだ。
 女性が長生きする一方、男性の独居も増えている。高齢離婚が大きな問題になっている。高齢独居男性にどのような支援をすべきか。
 在宅医療・介護を24時間365日提供できれば素晴らしいが、最低5人の看護師など、非常に大きな費用がかかる。
 介護保険の大きなコンセプトは介護予防だが、要介護度は上がることはあってもなかなか下がることはない。加齢によって要介護度が上がるのは仕方がない。要支援区分に対しても予防効果はなかなか上がらない。
 高齢者が独り暮らしを続けることが本当に施策として推進してよいのか、安全・安心なのか。東京はまだ密集しているが、過疎地では散在している。過疎地でも在宅を掲げてよいのか。どこに住まうかも課題。「住まう」は「住む」だけでなく、そこで様々な生活行動をすることと理解している。
 日本医師会も介護との連携について様々な提言をしている。医師会が地域資源マップを作製して配布することも提案している。
 介護老人福祉施設の個室ユニットが増えているが、特に認知症入居者に事故が多い。
 安心安寧を確保して住み慣れた地域で生活する体制が望まれる。
 認知症の外来患者も増えているが、入院患者も増えている。オレンジプランでは、早期発見・早期ケアが不適切な結果と結論づけているが、現実的に家族や地域による見守りが安心・安寧か。不適切な薬物使用? 投与した医療従事者本人は不適切とは考えていない。BPSDのガイドラインができている。行動・心理症状に対応できないために、精神科病院に入院するケースが多い。しかし、精神科病院で急性の脳血管疾患に適切に対応できるか? 連携救急医療機関に搬送するくらいしかできない。
 そもそも、入院の基準ははっきりしていない。病院では落ち着いていても、在宅では行動・心理症状が出る患者もいる。医療保険と介護保険を同時に使うこともできない。
 認知症患者が鼠径ヘルニアを発症した場合、認知症専門医が患者について行って転院先で認知症の治療を行うことも今の制度ではできない。
 和光病院の入院患者はFAST4以上の重症患者。認知症患者が物忘れに対して恐怖を持たないような教育を実施している。看護外来を2014年4月に開設する予定で、看護師等の多職種がそれぞれの職種の専門性について説明する。管理栄養士やOTも交えた朝30分のチームミーティング。メンズクラブでノンアルコールビールを出す。ケアによって認知症の症状が改善するなら、ケアも重要な治療手段。「院長も一緒に歌って下さい」と言われて困ったが、一生懸命エルビスプレスリーを練習して歌ったら大喜びだった。
 趣味や生活歴を取り入れるとBPSDは全く出ない。24時間交代で看護師が付き添い、安心させる。BPSDは不安から生じる。
 しかし、入院期間は長く、約半数が1〜5年入院し、10年以上入院している患者もいる。精神科医療は病院で待つ医療ではなく、外に出ていくアウトリーチの連携医療が本当に重要。
 私が考える連携は、自分の専門性を活かすために、他の専門職の専門性を理解して活用する医療。連携と称した押し付け合いではない。
 和光病院は電子カルテ。各専門職がセキュリティの中で参照できるが、介護事業所に開示するシステムはない。セキュリティの問題をどうするか。本人の意思決定能力、判断力が衰えている。
(当日の講演資料【PDF】はこちらから)

溝尾部長: 東京厚生年金病院も電子カルテを開業医に開示しているが、精神科だけは別にしている。
今井副理事長:野菜など予防の明確なエビデンスはないが、生活習慣病の予防と同じ。高血圧や糖尿病にならないような予防をすれば、認知症も予防できる。高血圧や糖尿病を管理しているかかりつけ医に早く発見してほしい。
溝尾部長: 今井副理事長からは精神科病院の立場から、尾林理事からは介護施設の立場からお話し頂く。医療と介護では必要な情報が異なるという講演も以前尾林理事に頂いた。東京厚生年金病院でも、介護に必要な情報を連携するようになった。

3.尾林和子(社会福祉法人東京聖新会理事)略歴
認知症とは何か御存知ですかー認知症と地域包括ケア

<概要>
 第2回研究会では、介護現場に医療情報は届かないと現場の実情をお話しした。当時はまだ認知症については話題に上がっていなかったが、今回は基本に立ち返り認知症についてお話しをしたい。まずは医療と介護の連携を円滑に進めるにはシステムとしてのICTはもちろんのこと、そこに関わる専門的なお互いの立場を理解することやメンタルモデルも含めた上での連携が必要であることをご理解頂きたい。
 4年間で高齢者が1000万人増え、現在認知症高齢者は462万人いると言われている。MCI、軽度の認知症は400万人。MCIの半数は認知症へ移行すると云われ、再来年には認知症患者は600万人を超えるのではないかと思われる。
 認知症患者に対してどのようなイメージを抱いているか? 1980年を境に全世界の精神科病院は減っているが、日本だけは増えている。それは認知症による入院が増えていることが背景にあるのかも知れない。社会の人々は認知症になったら「何も分からない」のだから施設や精神病に入って当然と思い込んでいる現状があるのかも知れない。
 では、実際に認知症とはどういうものなのだろうか。認知症には脳細胞がゆっくり壊死して委縮するアルツハイマー型、脳血管疾患によって脳の一部が壊死する脳血管性に大きく分けられる。これら疾患によって脳細胞が損傷を受けた結果、認知機能が低下しで様々な症状が出現する。それを中核症状としている。この中核症状によって性格・素質と環境・心理状態等が影響しあい、BPSD (behaviortal and psychological symptoms of dementia: 行動・心理症状)となる。そこから、認知症そのものが病気なのではなく、何らかの疾患によって脳細胞が損傷を受け、その結果として現れるのが認知症であると理解できる。
 認知症には大きな喪失感がある。
 治る認知症もある。早めの発見、対応、受診、治療が重要。
 例えば、眼鏡を頭の上に載せて眼鏡を探すことはよくあるが、認知症患者は眼鏡という存在そのものが認識できなくなってしまう。食事など、エピソードが丸ごと欠落してしまう。
 見知らぬ場所で方向が分からない時の不安感、焦燥感を思い出せば、認知症患者の気持ちが少しわかるだろう。このような不安が原因となってBPSDが出現する。記憶の障害、理解判断力の障害が原因となって生活障害が起こる。「問題行動」という捉え方は介護者側から見た問題であり、一番困っているのは本人である。認知症患者は中核症状のために自分をコントロールすることや症状を訴えることができない。本人は何を求めているのか、真のニーズを理解したケアが求められる。Person-centered care.「その人中心」のケアが必要である。認知症患者には感情が温存されることをよく憶えておいてほしい。 認知症だからといって何もできないわけではなく、1つの障害と捉え、快不快や安心不安はたくさん感じ取ることができると理解してほしい。しかし中核症状により本人は思いを伝えることができないことが多い。その思いを介護者が感じ取り、BPSDの原因を考えることが肝要である。自宅にいるのに外に出ようとする認知症患者の話はよく聞くが、その人にとっての今の自宅は、新婚生活の頃の家かもしれないし、戦時中の疎開先かもしれない、ということを考えられる想像性が介護者にはほしい。
 西東京市の1.6万人の高齢者調査で7割が健康不安を抱えている。本人は住み慣れた地域で安心して暮らしたいと望んでいる。主体性を持って「住まう」ことが求められている。地域資源の活用については様々なところで提案されている。認知症に特化した認知症対応型共同生活介護、いわゆるグループホームのユニットケア。素晴らしいグループホームがあちこちにできている。グループホームは10年で10倍近くに増えている。入居者の平均要介護度は平成13年の2.23から平成24年の2.79まで上昇している。東京聖新会の入居者の平均要介護度は4程度なので、それよりは軽い。在宅での認知症対応型通所介護施設も増加しているが、利用者の平均要介護度は平成18年の2.84から平成24年の2.78に下がっている。背景を考察する必要があるが、サービスを利用しやすくなったことや、在宅によって生きがいを得やすくなったことが理由としてあるかもしれない。
 平成25年厚生労働白書では54.6%が自宅で最期を迎えたいと回答している。
 Person-centerd careとして、本人そのものではなく、本人の生活の質、社会参加、自己実現を中心に据える。お互いのメンタルモデルを理解しつつお互いの専門性を活用し、ICTも活用した連携が必要。ただし、認知症は個別対応が必要であり、標準化しにくい。認知症患者はナースコールや見守りのボタンを押すこともできないことが多い。自己決定のできない、意思表示できない人を見守るためにはどうしたらよいのか。
 例えば、介護現場では水分摂取は死活問題。脱水症状になるとBPSDは悪化する。在宅高齢者が脱水に陥っていないか? 東日本大震災のような災害時にどのような地域包括ケアを提供できるのか、認知症患者をどうケアするのか。
 サービス付高齢者向け住宅について国の補助金があり開設ブームとなっている。そこでは日常生活にICTを取り入れてwebカメラやらセンサーを設置して情報共有を図っているが、認知症ケアができなければサービス付高齢者向け住宅で最後まで生活することは厳しい。このあたりの問題は本質的な部分で解決される課題として捉えるべきであろう。
 認知症などの障がいのあるなしに関わらず、なじみの空間で安心した尊厳のある生活を最後まで送るためには、ICTの果たせる今後の役割を課題としてここをあげていきたい。
(当日の講演資料【PDF】はこちらから)

溝尾部長: 災害時の地域包括ケア、認知症ケアという非常に大きな宿題を頂いた。今から災害時を想定して日常的に使える仕組みが必要。

4.片山智栄(桜新町アーバンクリニック在宅医療部)略歴
認知症施策推進5カ年計画(オレンジプラン)における認知症初期集中支援チームモデル事業内容

<概要>
 単独・夫婦のみの高齢者は1267万人、高齢者世帯の66.6%。認知症462万人、予備群400万人。都市部で急速に高齢化する。都会と都会以外で分けて対応する必要がある。
 認知症高齢者の50%は在宅。
 介護保険サービスと保険外のボランティア等によるインフォーマルサービスを併せて進めたい。
 医療と介護の連携だけでも難しいのに、地域包括ケアでは地域生活支援サービスや福祉・権利関連の様々な主体がいる。連携には情報共有が重要。クラウド型在宅医療介護情報共有システムEIRを導入し、他職種及び家族で情報を共有している。しかし、認知症患者に対してはまだEIRを適用していない。精神科の医慮情報、認知症の権利情報の共有には課題が多い。職種によって言葉の表現は大きく異なる。同じ「妄想」でも精神科医と訪問介護員では意味する内容が全く異なる。「財布が取られた」という時にどうアセスメントするか。長いテキストを共有するのが適切なのか。ある程度の用語や様式の標準化も必要ではないか。

(和光市の映像)
 和光市独自のデータベースで、どの高齢者がどのようなリスクを持っているかを瞬時に検索できる。転倒リスク、閉じこもりリスクなどを把握している。113項目のアンケートを高齢者に実施し、回答がない高齢者は職員が訪問して記入した。和光市では高齢者人口が増加しても要介護者数は増加していない。早期発見とリハビリテーションを通じて要支援2から自立することを通じて、介護保険費が減少した。
 地域の拠点配置計画にもデータベースを活用している。介護保険費を20円/人・月 削減できた。ICTによって行政が情報を把握し、行政がサービスを提供している。
 オランダは2004年、フランスは2001年に認知症の国家戦略を策定している。日本のオレンジプランは遅れている。オランダBuurtzorgは訪問看護ステーションだが、利用者満足度No.1で、看護師のモチベーションも高く離職率が低い。学士以上のジェネラリスト地域看護師が活躍している。BuurtzorgwebでOMAHAシステムに基づいてEHRを構築し、GPや行政とも連携している。フリーテキストはほとんどなく、標準化された項目で訪問看護計画ができあがる。訪問した回数ではなく、訪問しなくて済むことで評価される。
 世界的に精神科病床数は減少しているが、日本は私立病床が多いこともあり、横ばいである。
 認知症初期集中支援チームのモデル事業を受託している。今までは様々な対応が後手に回っていたのに対して、早期支援を行うのがオレンジプランの方針。認知症初期集中支援チームによるチーム員会議を開催し、患者の状況に応じて専門機関と連携する。チームは保健師・看護師、医師、作業療法士、臨床心理士、ケアマネージャー、介護福祉士など。認知症初期集中支援チームは、地域包括支援センター、社会福祉協議会、行政と連携する。
 対象は援助困難、受診拒否、介護拒否等があり、認知症の疑いがある住民。チーム2名で訪問する。今まで介護保険の適用申請もできなかった住民に対してアセスメント、コミュニケーション、サポートを提供する。対象者の生活を整えるための全人的なプランを立案する。住まい等の環境整備、買い物支援やヘルパー等の人的整備、今後の症状について理解を促し、在宅か入居かなどの意思決定を支援する。

(認知症例のNHKEテレ映像)
 パーキンソン症候群とレビー小体型認知症。幻覚や不安、不眠に悩まされる。片山所長が患者の話を丁寧に聞く。夜眠れないのはレビー小体型認知症の症状と判断し、医師から薬剤を処方してもらい、不眠が改善した。転倒の不安を和らげるために手すりを付け、スリッパの代わりにルームシューズ。実際の住まいと生活を見ながら対応を提案することが重要。チーム会議の結果、言語聴覚士が作成したリハビリテーションメニューを実施。片山所長はどんな小さなことでも相談できる、生きていくためのパートナ。
 専門性に応じてコーディネーションを行う。Recovery, Advocacy, SOLを通じてWell-Beingを高めるのが目標。
 兵庫県西宮市のパンフレットが地域包括ケアのイメージをよく表現している。
(当日の講演資料【PDF】はこちらから)

溝尾朗(東京厚生年金病院地域連携・総合相談センター長兼内科部長) 今井幸充(和光病院院長・認知症ケア学会副理事長) 尾林和子(社会福祉法人東京聖新会理事) 片山智栄(桜新町アーバンクリニック在宅医療部)
溝尾朗
(東京厚生年金病院地域連携・総合相談センター長兼内科部長)
今井幸充
(和光病院院長・認知症ケア学会副理事長)
尾林和子
(社会福祉法人東京聖新会理事)
片山智栄
(桜新町アーバンクリニック在宅医療部)

Ⅲ部
総合司会  田口 空一郎(一般社団法人フューチャー・ラボ)
      増山 茂(どこでもMYカルテ研究会・東京医科大学渡航者医療センター)

竜院長: 認知症患者にはアリセプトを処方するイメージが強い。行政と多職種が関与してプライバシーをどのように管理しているか?
片山所長: 地域包括支援センターが調整している。
田口氏: 非常に大きいテーマ。ICTの一般モデルはできるが、認知症やがん等の疾患差、個人差、地域差、色々な差異がある。様々な差異をどのように統合するか? 深く考えさせられた。みつぎ病院の土着的な方法では対応できない。東北の震災では同じ名字の人がたくさんいる。災害時に使えるモデルでないと意味がないというのは重要な示唆。都市部でたまたま住んでいた町に愛着があるか? 必要に迫られて地域に頼り、コミュニティが生まれるのか? 溝尾部長の患者の物語をICTで記憶するnarrativeな文系的?アプローチ。都市部で増える認知症をどのように解決するか、今後の課題を与えて頂いた。
溝尾部長: 必ずしもITが万能ではない。紙にバーっと書く方が書きやすい。災害時など、紙媒体は絶対消えない。地域包括ケアは次回また発展させて議論したい。
増山兼任教授: 認知症の地域包括ケアは改めて難しいと感じた。未消化なまま議論されているとも感じた。

田口 空一郎(一般社団法人フューチャー・ラボ) 増山 茂(どこでもMYカルテ研究会・東京医科大学渡航者医療センター)
田口 空一郎
(一般社団法人フューチャー・ラボ)
増山 茂
(どこでもMYカルテ研究会・東京医科大学渡航者医療センター)