医療構想・千葉 緊急討論会   
地域の声「増やしてよ、お医者さん」
ーどうしたら医師を増員できるか考える
開催速報
緊急討論会 風景
2010年3月13日開催
地域の声「増やしてよ、お医者さん」ーどうしたら医師を増員できるか考える が、2010年3月13日、千葉県浦安市にある了徳寺大学で開催されました。
この討論会、緊急の呼びかけでしたが、予定より多い50名弱の参加者で非常に盛 り上がりました。前書きにありますように、「様々な立場からの意見」が開陳さ れました。
銚子や山武などの医師不足を抱える千葉各地から参加された方々からは地域の窮 状が報告され、患者会の代表の方々からは一般的な患者の医師不足に対する認識 不足やその周知の必要などが報告されました。
 また医学生や研修医の方々からは、なぜ地域に若い医師が残らないのかについ て、また理想的な医師養成機関のあり方などについて報告されました。
 政治・行政サイドの方々からは早速持ち場で対応したいという発言などがあり ました。
 中核病院の医師からは将来のこの地域に新しいアイデアを持った医療機関の ネットワークをつくりその上での医師研修を考える必要があるとの意見が出され ました。
 総論としては、単なる医療界や行政任せではない、地域の医師不足に対して具 体的な対策を求める住民サイドの自覚と行動が必要との認識で一致しました。
ここに、当日の討論を採録します。 司会進行:増山茂(医療構想・千葉)。

[ 緊急討論会議事録 ]
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※※全文閲覧はこちらから(PDF)※※

千葉県でどうすれば医師増やせるか。新しい医育教育機関が千葉には必要なの か、もし千葉に作るとするとどこに誰が作るのが最適なのか、どのような方法論 (4年制メディカルスクール?or6年制医科大?)がありうるのか、などにつき、 ぜひ皆さまの、様々な立場からの意見、とくに現場からの切実なご意見を聞きたい。
これは本日の討論会の共通理解のための客観的データである。
 1.OECD諸国(人口千人あたり3.2人)に比べ、日本の医師数(同2.1人)は悲 惨なほど少ない。1966年(1.2人対1.0人)まではそれほどではなかったが、それ 以後水をあけられてた。
 2.その医師の少ない少ない日本の中で、千葉や埼玉県や茨城県では、人口あ たり医師数は現在でも東京の半分で最低レベルであり、患者あたり医師数も最低 である。医師不足率も大きい。加えて、医療圏格差をみると、千葉県は全国平均 より大きく、県内格差が大きい。千葉県における二次医療圏ごとの医師数を見て みると、全国平均が(10万人あたり)206人、千葉県平均が同153人のところ、君 津圏は同117人・山武長生夷隅圏では同94 人というありさまである。
 3.医学部定員は2009年に増員の決断がなされたが、1970年代の大幅増加のあ と、1980年代の定員減少などはニーズと無関係に定められ、医療者養成数のすさ まじい不均衡が固定化された。
 4.各都道府県の医学部入学者に占める県内高校出身者は、ここ5年でやや増 えたが、千葉では逆に減った。医学部卒業生の地元定着率はここ5年でやや低下 したが、千葉県では80%近くから 50%まで激減した。つまり千葉では地元の学生は 少なくなった。
 5.国内推定患者数は2025-30年にピークを迎えると予想されている。現在の医 師の増加トレンドを考えても、2016年までは医師不足数は増加する(7.8万 人)。また、2035年になっても2.7万人の医師不足が考えられる。
 6.地域格差を考えるとさらに厳しい。千葉・埼玉などのように患者数の伸び 率は+35%になる地域もあれば、マイナスとなる地域もある。医師数の伸び率にそ れほど大きな地域差はない。
 7.結論。千葉や埼玉や茨城では、将来とも患者数あたりの医師数はどこより も少なくなる。断トツのワースト3になる。(詳細は別掲の資料を参照されたい。)
地域の医師数に、もっとも影響するのは地元の医学部の数。九州と千葉・茨城の 人口はほぼ同じだが、医学部は前者が10,後者が2である。医師数に差がつく のは当たり前。この理由は、戊辰戦争以後の近代化政策において、西日本が優遇 されたためである。千葉県には、300人程度、医学部の定員を増やす、あるいは 医学部を新設する必要がある。
千葉県における 地域中核病院の状況を概説。千葉県では、救命救急センター・ 周産期センター・小児病棟を設置しているような地域中核病院は、県東部・南部 地域には極端に少ない。亀総合田病院と旭中央病院がかなりを引き受けている。 医師がいなくなって消えつつある病院も多い。人口 10万人あたりの医学部入学定 員数をみると、全国平均では、10万人あたり6.9人。栃木県(医学部2校)は同 11.3人、東京都(同 11校)は11.1人。翻って、千葉県は同1.9人、埼玉県は同1.6 人。両県とも医学部は一つしかない。この不均衡はなんとしても是正されねばな らない。

--地域から--

国保国吉病院病院に医師を確保するために、地域の方に医学部進学予定者がい るときくと親御さんに奨学金を用意したり、独身の医師がいるとお見合いを斡旋 したり、との涙ぐましい努力をしている。それでも5階建ての病院一階分が医師 不足で開けられない。 偏在もあろうが、圧倒的に医師が少ないことは事実だ。地域医療の恩恵を受ける 側の者を代表して言うと、極力早急に医師を増やして欲しい。千葉大学ですが、 そのためにも定員をもっと増やすこと、地域枠を設けたり拡大すること、学士編 入学などを拡充することからでも優先的にやっていただきたい。県から億単位の 補助金が出ているかと思うのですが、それなら千葉県内で医 師が増えるように考えていただきたい。 日本医師会は医学部増設反対で医者を増やすのを拒絶しているようですが、国 民、県民、市民の目には、その期待に応えていないのではないと写っています。
長生郡市の医療状況はぎりぎりである。公立長生病院は平成19年度には一時内科 医が1名しかいないという状況に陥った。昨年初めには9名にまで増え、二次待 機当番も一月の約半分をカバーするに至ったが、結果として周辺地域からの救急 患者の流入も増えることになり、4名が辞めてしまった。この原因は、病院勤務 医の超過労働による過労にある。コンビニ受診や救急車のタクシー的利用によ り、2次救急に耐えられなくなっている。周辺地域全体の体制が整わなければ、 一つの病院が努力して体制を整えても、持ちこたえられずにつぶれてしまう。 医師がきちんと正常に働ける条件を整備しないと永続性のある医療は難しい。そ のためには、開設者の正しい現状認識、開業医の方々との連携、地域住民の理解 が必要である。さもなければ医師は減ることはあっても増えることはないであろう。
東総地域では医師不足の結果、旭中央病院に患者さんが集中し、入院や手術が必 要な患者さんに迅速に対応出来なくなっています。その結果、患者さんが不利益 を被っています。医師も診療ではなくベッド探しで苦労しており、そのストレス から職場を去ってしまう方もいます。 その一方で旭市周囲の自治体病院は空きベッドが多数あり、赤字経営に苦しんで います。 大病院である旭中央病院ですが、既に「科単位」では複数の科が破綻しており、 破綻した科では大幅な診療制限をしています。破綻していない科でも医師の疲弊 は深刻な状態です。 最善の方法が旭中央病院と周囲の自治体病院との経営統合であり、国の方針、職 員の負担などを考えると独立行政法人化が適していると思います。
銚子市民病院の開設から消滅までを見てきた。本年5月1日開院を目指して努力 しているが、現時点で常勤医がひとり、非常勤医がひとりしか決まっていない。 日本大学医学部との関係悪化により閉院になった。医師の研修制度との関係を知 りたい。医師養成の増員はぜひやって欲しい。ただ、医師会は、この増員に反対 しているようだが、どうしてだろうか、知りたい。
銚子の問題は単独での解決は中々難しい。医師が絶対的にいない。ただ、この香 取海匝地域を全体でみると人口10万人あたりの医師数は178人であって、必ずし も千葉県内では低いわけではなさそうである。旭市などとの全体構想で考えれば 可能性はあるのではないか。 医師の数が絶対的に不足していいるなか、千葉県内の医師を増やすために、あら ゆる手を打つべきだ。

--患者団体から--

簡単な聞き取りリサーチをした。結論:患者の多くはあまり医師不足を感じてい ない。
→病院で待ち時間が長い・予約時間に遅れるのに慣れている。 →がん診療連携拠点病院でも婦人科医が一人しかいない。 これらに不満があったとしても、「病院にお金がなくて医師が雇えない」という 認識であり、医師不足解消によりこれらの問題がなくなるかもという発想がない。 新聞記事で「医師不足」や「医師の過労死」などの問題を読んだことがあるかと いうと、「あー、なんかそんなこと新聞の見出しにあったなぁ」程度の認識。医 師不足の解消により、医師の確保に苦慮している病院が医師の確保ができ、たと えば「婦人科の外来の日が増えるために診察時間が適切になる」とか「お産の予 約が取りやすくなる」といったメリットがあることが分かっていない。 *患者の単純な疑問 医学部を増やしても、その医師が使えるようになるのは数年後。それまではどう 持ちこたえますか?医師が増えたときの国民のメリットはなんですか?
沖縄県唯一の骨髄バンク認定施設である琉球大学付属病院で、専門医の相次ぐ退 職があり、移植及び採取ができなくなっている 疑問としては、一般に退職した医師はどこに行っているのか?また、医師会が医 師を増やすことに反対していると聞いたが、既得権益を守ろうとする動きなのか?

--若者から--

医学部を作れば、それだけで千葉の医療を支える医師が増えるわけではありませ ん。絶対に地域医療に貢献してくれる医師を育てるには、お金がかかる。教育の 中身はもちろん、待遇や選抜方法もきちんと議論していく必要があるのではない でしょうか。
千葉県は日本の医療の縮図であり、国際性と地域性を併せ持つ。また偏った人口 分布があり、都市部と郡部をもつ。
新しい医育教育機関は以下の特性がほしい。
1、”多様性”多様な医療ニーズ、その他社会からのニーズに耐える人材の確保。 他の医療職からの転向奨励や、留学生枠。障害者枠も? 学生負担は限りなくゼロに近づける。 受験システムの見直し:誰を医学部に入れたいかは地域が選び、誰を医師にする かは国民が選ぶ
2、”公開性”:開かれた”知”、開かれたマネジメントであるべ き。講義は一般公開し、自由に聴講可能とする ☆地域のメディカルリテラシー、ポリティカルリテラシーの向上に寄与する
3、”経済性” 新たなものを創出するのではなく、すでにあるものを活用する
知人の医師や病院長から話は伺っていたが、千葉には如何に医師が不足してい て、危険な状況なのか理解できた。
そこで千葉に医師を供給するために、どのような行動を取ればいいのか具体的に 知りたい。その行動が難しいならば、何が原因なのかもお聞きしたい。
1つだけ医師増員のための提言をさせていただくと、全国医学部長病院長会議様 が言うようなマンパワー不足が起こると言うならば基礎的な教育内容はE-ラーニ ングとして学べるようにすればよいのではないか?
(右のサイトような方法です http://dreamscope.jp/ )

--会場より--

(厚生労働省ではなく、千葉県出身、千葉大学医学部の卒業後千葉県内で勤務医 経験からの意見として)とにかく早く行動すべきだが、同時に具体的な案を作成 しておかないとただの陳情になってしまう。
その際に、整理しておきたい論点として次の様なものがある。
①どの種類の医師の何を増やすべきなのか
②医師をどこまで増やすのか、増やしてどうしたいのか
③医師を増やす手段は何か、超えるべきハードルは
④ 増やした医師の定着の手段は何か
私的な意見だが、①については、専門医というよりは地域に貢献できる横断的な 診療ができる医師。具体的には、病院総合内科医、診療所総合医、ER型救急医 など。②については、まずは、単独主治医+当直制度をやめて、夜勤+チーム主治 医制度の切り替える。つまりシフト制をしけるまで。その結果、オフの時間には 見識を広げることができて、オンの診療時間には全力で患者の治療をし共感する ことができるようになる。ゆくゆくは、育休や産休がとれたり、オフジョブト レーニングできたり、行政参加や社会進出ができるように。③については、千葉 大学の増員or増設orメディカルスクールなどが考えられる。このなかで超え るべきハードルやメリットデメリットを見極める必要がある。④については、大 学入学時の奨学金などが議論されるべき。なにより、初期研修から後期研修の キャリアパスをどう描くかが重要で、現状として、後期研修まで明確なキャリア パスを示している大学や病院はあまりないので、旭や亀田を中心に後期研修の キャリアパスを示せれば、全国から医師が集まってくる可能性がある。
医師の診療科と地域の偏在については、千葉と逆に人口当たりの医師数がトップ ランクにある徳島県においても、医師の集中する徳島市で夜間の産科救急が綱渡 りの状態にあったり、県南の過疎地域で脳卒中の急性期機関が指定できなかった り、また基幹病院で産科や外科に医師不足が生じている原状にある。 つまり、単に医師の数を増やすだけで千葉県の医師不足の問題が解決するのかに ついては慎重な検討が必要。その際に、実効性のある方策を講じるには医師や患 者など全ての関係者の参加する国民的議論の場とそこでの決定を政治的リーダー シップで確実に実現していく仕組みが必要。こうしたものを与える政策ツールと して、医療分野だけに制定されていない医療基本法の制定が有効であると考えて いる。

--リード討論者--

2010年2月の全国医学部長病院長会議の要望書は、新しく医学部を作ったら、一 つは現場の優秀な臨床医が奪われてしまって地域医療を崩壊させ、地域病院の医 師不足を加速させるということ、もう一つは将来医師が増えすぎて困ることにな る、ということのようだ。私どもが考えているメディカルスクール構想ではそう はならない。
メディカルスクール構想についてですが、ポイントは2点あります。ひとつ は、これからの学生にたいし、医師になるための多様な選択肢を与えることで す。18歳までに自分の職業を決めなくてはならないというパス以外の選択肢も 用意することは、若者にとって重要なことだと思います。2点目は、現在ある病 院やそこで活躍する優秀な医師を、教育においても有効に活用することで新しい 大学の初期投資や経費を大幅に節減することができ、授業料も抑えることができ ます。新設大学ができても、従前の新設医大のような多額の寄付を必要とするよ うな大学では意味が無く、有能な若者にいろいろなチャンスを与えることが重要 だと考えます。
千葉県悲惨物語を言っていても何も変わらない。また、政府にお願いしても動 かない。地域住民に情報開示し、問題意識を共有すべきだ。残された時間は多く ない。

千葉、埼玉、茨城、福島県の浜通りまで、ひどく医師が少ない。千葉県には医学 部でもメディカルスクールでもいいが、人口比でいえば、4個あってもよい。千 葉県単独でなく、他府県と組む方が説得力がある。時間とタイミングが大切であ る。すぐにでも動き出さないといけない。
ただ、医学部を創設する話だけでは説得力に欠ける。医師の育成は卒業後も続 く。労働力を求めることより、卒後の医師としてのキャリア形成の場を設定する ことが重要である。従来の医局講座制でない、新たな受け皿として、上記地域の 基幹病院が緩やかなネットワークを形成して、医師を育成する姿勢を示すことが 極めて有用である。地域の利害と関係なく、その医師の成長だけを考えるメン ター役も必要である。徳島、高知、鳥取など西日本の一部の地域では、医師が 余っている、あるいは、活かされていないように見える。受け皿を作れば、活動 の場を求めている医師を招聘できる。
千葉の一部地域には厳しい医師不足があることがよくわかった。対策には、短期 的に早急に手を打たねばならないこと、中長期的に腰を据えて考えねばならない ことがある。
新しい医師養成機関つくりは後者に属するが、日本国中でもっとも必要なのは千 葉や埼玉や茨城であることがよく理解できた。ただ、今までと同じような医学部 を増やしても同じような地域的・診療科的偏在を助長するだけに終わるだろう。 低医療費政策の中で、大学医師や病院医師の数が激減して疲弊し、新設医学部を 推進できる人的余裕がないし、医学部を作ってもこの医療経済の仕組みでは経営 も困難であろう。
臨床研修がはじまり、超過勤務のない、専門性がまだない、戦力にならない医師 が多く養成されており、医療崩壊を加速させた現実がまだ進行している。 大学の教官の不足も深刻で、いわゆる国立大学機構の中で毎年定員を減らされ、 資金を減らされ、大学病院には医学生を増員して育てる体力がもうない。私立大 学も同様であり、経営第一を余儀なくされているため、さらにひどい教官不足の 状況である。
将来の日本医療全体構造を見据えきちんとした哲学をもって進まねばならない。  国民皆保険を維持し、国民が等しく医療を受けられるようにするには、医療に 金がかかって当然という国民の意思が必要である。また、通達だけして何も責任 を取らない、検証もしないで次の通達が来る、この官僚体制を変えない限り医学 部新設は実効性のあるものにならないだろう。

医療構想・千葉としては、この討論会を踏まえ、早急に、千葉・埼玉・茨城など 医師過疎地域に医師を増やそう、という市民運動をサポートしていきたいと思う。 また、卒前研修のみならず卒後の医師のキャリア形成に場を提供できる地域基幹 病院のネットワークを基礎とした新らしいアイデアを持った医育教育機関の受け 皿を提案していきたい。